大判例

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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)131号 判決

控訴人

株式会社アイエン

右代表者

杉本尊

右訴訟代理人

野原泰

被控訴人

株式会社 新和

右代表者

大友佐夫郎

右訴訟代理人

三枝信義

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一被控訴人主張の請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二そこで、控訴人主張の抗弁について検討する。

〈証拠〉を綜合すれば、次の事実が認められる。

1  被控訴人は訴外株式会社英国ギフトセンター(以下、訴外会社という。)が製作、販売するローヤルウインザーセツト(ボールペン、カウスボタン、ネクタイピン等を種々組合わせたギフトセツト、以下、単にギフトセツトという。)の販売元として、昭和四八年四月頃から控訴人との間に右ギフトセツトの売買取引を始めた。右取引後暫らくしてギフトセツト取引量は控訴人の販路拡張によつて急速に増加したが、訴外会社の製品の製作能力が低いため控訴人の需要に追いつかなかつた。また、訴外会社から控訴人、被控訴人の販売方法に対する苦情もあつたので、同年六月一六日右三者間で協議した結果、控訴人、被控訴人は宣伝の自粛と類似品の販売等をしないこと、訴外会社は製品の供給不足の解消について努力すること等を骨子とした覚書を作成して取交した。

2  他方、控訴人と被控訴人間の取引量の増加に伴い、控訴人の被控訴人に対する売買代金の支払方法は、当初において二〇日締切りの翌月一五日払の一回払で、支払額の三分の一が現金、その余は手形であつたものが、被控訴人の要望に基づいて、月二回の現金払、次いで月三回の現金払と変更された。そして、同年一〇月頃の月間取引量はギフトセツト約五〇〇〇個程度に達していた。

3  控訴人は本件商品の売行きが良く同年末には大幅な需要が見込まれるとの判断のもとに、同年一〇月一五日被控訴人に対し、同年一一月一五日から同年一二月一五日までの納入分として、従来の平均納品数五〇〇〇個のほかに、年末増加分として六〇〇〇個を加え合計一万一〇〇〇個のギフトセツトの納入を要請した。

被控訴人は控訴人の右要請を検討したが、訴外会社はその人的構成が四、五名程度の零細企業であり、かつギフトセツトの中にはボールペンなど一部輸入を要するものが含まれていること等のため大量の増加は望めないことを考慮し、控訴人の右要請をそのまま受入れることは無理であると判断した。そこで、被控訴人は訴外会社にギフトセツトの供給の見通しについて打診した結果、控訴人の要請する納入期間を若干伸長し、また控訴人が納入を希望するギフトセツトの種類を若干変更するならば、約一万一〇〇〇個に及ぶ本件商品を納入することが可能であるとの判断に達し、その旨を控訴人に伝えた。また、被控訴人は控訴人が前記のように大量の注文をして途中で商品を引取らなくなることを懸念し、中途の解約を防止し、かつ売買代金の支払を確保する趣旨で、売買代金の一部を前渡しするように求めた。控訴人は、当初の予定より期間、数量に変更がなされても、約一万一〇〇〇個のギフトセツトが確保できると考えて、被控訴人の申出に同意した。そして、両者間で種々細目を協議した結果、同年一一月五日、本件商品の納入期間を五期に分け、第一期を昭和四八年一一月一六日から同月二五日まで、第二期を同月二六日から一二月五日まで、第三期を同月六日から同月一五日まで、第四期を同月一六日から同月二九日まで、第五期を翌昭和四九年一月八日から同月三〇日までに区分し、各期毎に、納入商品の種類、数量及び代金を控訴人主張のとおりに定めた。もつとも、右の定めには、前記のような本件商品の製作、総販売元である訴外会社の供給能力に鑑み、納入商品の種類、数量、代金の若干の増減変更が生ずること、また納入の時期に若干の遅延があることはやむを得ないこととして控訴人において暗黙の諒承をしていた。

また、前払金の額、その支払方法及び残代金の決済日、決済方法等も前記各期毎に定められ、そして、第一ないし第四の各期に予定された前払金(現金及び手形)の内容は控訴人主張のとおりであり、その決済日はいずれも前記第一ないし第四期のほぼ各中間の日とし、残額は各期の最終日に現金で清算することと定められた。右前払金について、控訴人としては被控訴人から本件商品を間違なく納入してもらいたいとの意図のもとに一括交付を約したが、被控訴人としては本件商品売買代金の支払確保のために予め提供をうけるものであり、したがつて、前払金の決済日も各予定納期の終了前に定められていたことから、右前払金の売買代金への充当については、各予定納期の終了後ではなく、各予定納期の前払金の決済日を基準として、その当時における売買残代金に充当されることが予め合意されていた。

右のような取り決めがなされたので、被控訴人は控訴人の要望によつて納入品の種類、納入時期、数量、代金額を記載した一覧表を作成して交付した。そして、控訴人は被控訴人に対し、右取り決めに従つて、現金三〇〇万円及び本件手形を含む約束手形四通金額合計一一〇〇万円を交付した。

4  かくして、被控訴人は控訴人に対しほぼ毎日のように本件商品の納入を行い、第三期までは、納入商品の種類、数量に若干の増減変更があつたものの、納入の遅延もなく、また前払金も当事者の暗黙の合意に基づき、第一期ないし第三期の各納入予定商品代金の支払に限定することなく、各前払金の決済日当時における売買残代金に充当されて、ほぼ順調に取引が行われ、期間の終りまでに代金の清算もすべて完了した。

ところが、第四期の中間の昭和四八年一二月二一日から本件商品の納入がとまつた。被控訴人は控訴人に対し、その頃右の納入停止は、ギフトセツトの部品であるボールペンがクリスマスの時期のため輸入が遅れセツトを組むことができないことによるもので、被控訴人にも全く在庫がなくなつたので納入できないから暫らく待つてほしいと伝えた。そして、事実、ニユーヨークから訴外会社宛に発送された輸入ボールペン八五〇ダースが同月二一日に羽田空港に搬入されたのに通関許可が同月二四日と遅れ、そのため、ようやく同月二五日に訴外会社によつて搬出された。

ところが、控訴人は年末で需要が最も盛んなときに納入が停止されたことについて不審をいだき、被控訴人が在庫があるのに故意に納品しないとの疑をもち、再三、再四納入の督促をしたが埓があかず、かくして同月二四日控訴人の要請により、被控訴人代表者大友佐夫郎と担当社員高橋幸男が控訴人代表者杉本尊方に赴いて話し合つた。控訴人は被控訴人がボールペンの輸入の遅れを口実に商品の納入を停止し、前払金の支払を受けてしまうのではないか、そうすれば本件商品の供給がうけられなくなると危惧して、本件手形の満期である一二月二五日午後三時までに商品を納入するよう求めた。これに対し、被控訴人は輸入ボールペンの通関手続の関係等で同月二六日でなければ納入できないことを説明し、それまでしばらく待つてほしいとのべ、翌二五日にも折衝が続けられたが、控訴人が同日午後三時以降の商品の受取を拒絶すると述べたことにより結局折衝は打切られた。そして、控訴人は同日本件手形の支払を拒絶して控訴人主張のとおりに手形金相当額の二五〇万円を銀行に預託した。被控訴人は同月二六日には訴外会社から本件商品が届けられたので、同日控訴人に対し、本件商品の納入準備ができた旨を告げて受領方を求めたが、控訴人がこれに応ぜず、爾後、当事者間の取引は跡絶えた。

5  本件手形の決済日たる昭和四八年一二月二五日までに納入された第四期の本件商品の代金額は金三三一万六一八〇円であり(ただし第四期は予定の上では一二月一六日からであるが、実績においては同月一一日からとされて、同日以後納入された商品代金額がこの金額となつた)、前払金は現金九〇万円、本件手形金二五〇万円の合計三四〇万円である。

以上の事実が認められ、〈る。〉

そこで、以下、右認定事実に基づいて、控訴人主張の抗弁について順次判断する。〈中略〉

(抗弁二の4について)

控訴人は本件手形の原因債権である本件商品の売買代金債務が二年の短期時効の完成により消滅したから、本件手形金の請求をなしえないと主張する。しかしながら、本件手形は控訴人主張のとおり本件商品代金債務の支払手段として振出されたものであるから、本件手形金請求訴訟の提起によつて本件商品代金債権につき時効中断の効力が生じたものと認めるのが相当である。そうだとすれば、本件手形金請求の訴が提起されたことの記録上明らかな昭和四九年三月一九日をもつて控訴人主張の商品残代金債権についての時効は中断されたものというべきである。

しからば、本件手形の原因関係たる商品残代金債権について短期時効が完成したとの控訴人の抗弁は採用できない(なお、所論引用の判例は原因債権が手形金請求訴訟の提起前すでに時効期間の満了によつて消滅していた場合に関するものであつて本件と事案を異にする。)。

以上検討したとおりであつて、控訴人の抗弁はすべて失当というべきである。〈後略〉

(松永信和 糟谷忠男 浅生重機)

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